介護費用の負担が大きいと感じている方のなかには、世帯分離をすることで負担が軽減できるのではないかという疑問をもっている方も多いのではないでしょうか。
世帯分離をすると、高額介護サービス費の上限額が下がったり、介護施設の入所費用を抑えられたりできる場合があります。
ただし、世帯分離によって費用負担が増えてしまうことがあるため、あらかじめデメリットを知っておくことが大切です。
そこで本記事では、世帯分離のメリットやデメリット、手続き方法を解説します。
世帯分離をした方がよいか悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。

世帯分離とは

世帯分離とは、住民票上の同一世帯を複数の世帯に分ける手続きのことです。
同居していても住民票上では別世帯として扱われるため、介護サービスの負担額が世帯ごとに計算されるようになります。
例えば、介護サービスを利用している夫婦が現役世代の子どもと同世帯としていた場合、世帯所得は子どもの収入と夫婦の年金の合計額です。
介護サービス費は世帯所得に応じて決まるため、収入の多い家族と世帯分離することで介護サービス費の負担を軽減できるケースがあります。
世帯分離をするメリット

世帯分離をすると、以下の3つのメリットがあります。
- 高額介護サービス費の限度額が下がる可能性がある
- 介護施設の入所費用を抑えられる場合がある
- 国民健康保険料の負担を軽減できる可能性がある
それぞれ詳しく紹介します。
高額介護サービス費の限度額が下がる可能性がある
高額介護サービス費とは、1ヶ月に支払った介護サービス費の合計が自己負担上限額を超えたときに、超過分が支給される制度です。
自己負担限度額は世帯ごとに決められるため、世帯分離で所得を圧縮することで限度額が下がる可能性があります。
高額介護サービス費の自己負担限度額は、所得区分によって以下のように設定されています。
| 所得区分 | 自己負担上限額(月額) |
| 課税所得690万円 (年収約1,160万円)以上 | 140,100円(世帯) |
| 課税所得380万円~690万円 (年収約1,160万円)未満 | 93,000円(世帯) |
| 住民税課税~課税所得380万円 (年収約770万円)未満 | 44,400円(世帯) |
| 住民税非課税世帯 | 24,600円(世帯) |
| 住民税非課税世帯かつ前年の年金を含めた所得金額の合計が80万円以下 | 24,600円(世帯) 15,000円(個人) |
| 生活保護受給者 | 15,000円(世帯) |
例えば、夫婦の年金収入が合計200万円、同居の息子の年収が600万円で同一世帯の場合、高額介護サービス費の上限額は月93,000円となります。
一方、世帯分離によって夫婦のみの世帯にすれば、上限額を月24,600円まで引き下げることができます。
介護施設の入所費用を抑えられる場合がある
世帯分離をすると、介護施設に入所したりショートステイを利用したりするときの食費と居住費の減免を受けられる可能性があります。
この制度を特定入所者介護サービス費といい、原則として世帯全員が住民税非課税である世帯が対象となります。
減免を受けられる施設は、以下の7施設です。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護(地域密着型特別養護老人ホーム)
- 短期入所生活介護
(ショートステイ) - 短期入所療養介護
(医療型ショートステイ)
負担限度額は、所得や介護施設の種類、部屋のタイプによって異なります。
利用できるかどうか確認したいときは、施設の相談員やケアマネジャーに相談してみましょう。
国民健康保険料の負担を軽減できる可能性がある
国民健康保険料は世帯全体の所得で計算されるため、収入が高い家族と世帯分離をすると保険料の負担が軽減できます。
国民健康保険料には所得に応じた軽減制度があり、世帯の前年所得が一定額以下の場合、保険料の均等割額が7割、5割、2割軽減されます。
例えば、年収500万円の子どもと年金収入150万円の親が同一世帯の場合、軽減制度の適用が受けられません。
しかし、世帯分離により親のみの世帯になれば軽減制度の適用を受けられる可能性があります。
世帯分離をするデメリット

世帯分離をする際は、以下のデメリットに注意が必要です。
- 高額介護サービス費の限度額が上がる可能性がある
- 扶養手当や家族手当が受け取れなくなる場合がある
- 国民健康保険料が高くなる可能性がある
1つずつ見ていきましょう。
高額介護サービス費の限度額が上がる可能性がある
世帯分離をすると、所得によっては高額サービス費の限度額が上がってしまう可能性もあります。
例えば、両方とも要介護者で、住民税非課税世帯の夫婦が世帯分離をする場合、分離前は世帯上限額24,600円が適用されています。
しかし、世帯分離で単身世帯となると、それぞれに個人上限額15,000円が適用されて合計30,000円の負担になります。
複数の要介護者がいる世帯では、世帯合算による費用軽減の効果が失われて、かえって負担が増える可能性があります。
世帯分離前には、それぞれの世帯での限度額を試算し、総額でどちらが安くなるかを確認することが大切です。
扶養手当や家族手当が受け取れなくなる場合がある
世帯分離をすることで、扶養手当の支給対象外となる可能性があります。
扶養手当は社会保険の被扶養者の範囲に支給している会社が多く、同一世帯であることが条件となる場合があります。
全国健康保険協会(協会けんぽ)では、被保険者が生計を維持している同一世帯の一定範囲内の親族を被扶養者として定めています。
そのため、世帯分離によって別世帯になると、扶養手当や家族手当が受け取れなくなる可能性があるのです。
世帯分離の手続きをする際は、どれほど収入が減ってしまうのかをあらかじめ確認しておきましょう。
国民健康保険料が高くなる可能性がある
世帯分離によって国民健康保険料の支払いが少なくなる人もいますが、場合によっては高くなってしまう可能性があります。
これまで家族の扶養に入っていた人が、世帯分離をして新たに国民健康保険に加入した場合、世帯ごとに保険料を納めることになります。
それぞれの世帯で国民健康保険料の支払いが必要になると、全体の負担額が増えてしまう可能性が高いです。
そのような状況にならないためにも、世帯分離後の国民健康保険料の負担額をシミュレーションしておきましょう。
世帯分離の手続き方法

世帯分離の手続きをする際は、自治体への申請が必要です。
申請の際は、以下の書類を持参しましょう。
- 世帯変更届
- 本人確認書類
(マイナンバーカードや運転免許証、パスポートなど) - 国民健康保険被保険者証や後期高齢者医療被保険者証
(加入者のみ) - 委任状
(代理人が手続きする場合のみ)
自治体によって必要書類が異なる可能性があるので、あらかじめ自治体の窓口やホームページで確認しておきましょう。
世帯分離以外に介護費用を軽減する方法

世帯分離以外にも、以下の制度を活用すると介護費用が軽減できる可能性があります。
- 高額医療・高額介護合算療養費制度
- 医療費控除
それぞれ詳しく解説します。
高額医療・高額介護合算療養費制度
高額医療・高額介護合算療養費制度は、医療保険と介護保険を利用している世帯の費用負担を軽減するための制度です。
国民健康保険や後期高齢者医療制度、健康保険などの被用者保険に加入している場合は対象となります。
医療保険と介護サービス費を合算したときの世帯の負担上限額は、以下のとおりです。
| 世帯収入 | 75歳以上 | 70歳~74歳 | 70歳未満 |
|---|---|---|---|
| 介護保険+後期高齢者医療 | 介護保険+被用者保険または国民健康保険 | ||
| 年収約1,160万円~ | 212万円 | ||
| 年収約770~約1,160万円 | 141万円 | ||
| 年収約370~約770万円 | 67万円 | ||
| ~年収約370万円 | 56万円 | 60万円 | |
| 住民税非課税世帯など | 31万円 | 34万円 | |
| 住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下など) | 19万円※ | ||
参考:厚生労働省 高額介護合算療養費制度
これらの上限額を超過した場合は、自治体から郵送される支給申請書を国民健康保険や被用者保険の運営団体(健康保険組合など)に提出することで超過分が還付されます。
ただし、転居・転職などで医療保険や介護保険の加入先が変わると、支給申請書が届かないケースがあります。
支給申請書が届かないときは、自治体の窓口に確認しましょう。
医療費控除
介護サービス費は、確定申告をすることで一定割合が医療費控除の対象となる場合があります。
例えば、訪問看護・訪問リハビリテーションといった、看護師や理学療法士などが提供する医療系サービスが対象です。
原則として医療系サービスのみが対象ですが、医療系サービスと併用すると訪問介護といった福祉系サービスも医療費控除の対象となるケースがあります。
対象となる介護サービスは、国税庁のサイトで確認しておきましょう。
医療費控除の対象サービスや受けるまでの流れは、こちらの記事で詳しく解説しています。
世帯分離をする際のよくある質問

最後に、世帯分離をする際のよくある質問に答えていきます。
世帯分離をすると戻せなくなる?
世帯分離後でも自治体窓口で「世帯合併届」を提出すれば、再び同一世帯に戻すことができます。
世帯合併をするときは、社会保険料や手当の変更手続きが必要となります。
関係機関への連絡や手続きが必要となるので、手間がかかることに注意が必要です。
世帯分離の手続きは誰が行ってもよい?
世帯分離の手続きは、原則として世帯主もしくは分離される本人が窓口で手続きを行います。
代理人による手続きをする場合は、委任状と代理人の本人確認書類が必要です。
自治体窓口に行くことが難しい場合は、家族や友人に手続きを代行してもらいましょう。
世帯分離をしても同居を続けられる?
世帯分離は住民票上の手続きであるため、同じ住所で同居を続けることは問題ありません。
住民票上は別世帯となりますが、実際の生活ではこれまで通り同居し、生活費や家事を共有できます。
家族の介護費用を軽減したいときは世帯分離を検討しよう
世帯分離をすると、高額介護サービス費の限度額が下がったり、介護施設の入所費用を抑えられたりする可能性があるため、介護費用を軽減できる場合があります。
しかし、扶養手当が受け取れなくなったり、高額介護サービス費の負担が増えたりする可能性があることに注意が必要です。
世帯分離を検討する際は、介護費用の負担額や扶養手当の有無などを総合的に判断することが大切です。
自治体の窓口やケアマネジャーに相談し、世帯分離によって実際にどの程度介護費用が軽減するかを試算してもらいましょう。
介護費用の支払いに不安を感じている方は、ファイナンシャルプランナーへの相談をおすすめします。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士




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