傷病手当金と障害年金を同時に受給することができるのか、疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。
傷病手当金と障害年金の支給理由が同一傷病である場合、支給額が調整されることがあるため、満額を受け取ることは基本的にできません。
ただし、障害基礎年金のみを受給したり支給理由となる傷病が異なったりするときは、どちらも満額受け取れます。
本記事では、傷病手当金と障害年金を併給できるケースやそれぞれの受給要件を解説します。
自身が傷病手当金と障害年金を併給できるのかを知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

傷病手当金と障害年金は併給調整される場合がある

傷病手当金と障害厚生年金の支給理由が同一の傷病である場合、原則として併給できません。
同一の傷病によって障害厚生年金と傷病手当金のどちらも受給する権利があるときは、障害厚生年金が優先されます。
つまり、障害厚生年金が全額支給され、傷病手当金が支給停止となるのです。
ただし、障害基礎年金・障害厚生年金の合計額を360で割った金額が傷病手当金の日額よりも少ないときは、差額を受給できます。
例えば、傷病手当金の日額が8,000円で障害基礎年金・障害厚生年金の合計日額が5,000円の場合、その差額である3,000円×休業日数分を受給できます。
傷病手当金と障害厚生年金を満額受給した場合は、重複分を返還する必要があるので注意しましょう。
なお、以下のケースは併給調整の対象外となります。
- 傷病手当金と障害年金の支給理由が異なる傷病である
- 障害基礎年金のみと傷病手当金を受給する
- それぞれの支給期間が重複していない
障害基礎年金のみを受ける場合は、併給調整の対象外となるため、傷病手当金と障害年金のどちらも満額受給できます。
また、異なる傷病を理由として併給を受ける際は、同一の傷病と見なされていないかを加入している健康保険組合に確認しておくと安心です。
傷病手当金とは

傷病手当金とは、職場外で発症した傷病で働けなくなったとき、健康保険から支給される手当のことです。
健康保険に加入している方が受給要件を満たすと、最長1年6か月間にわたって手当を受け取れます。
ここでは、傷病手当金の受給要件と受給額を解説します。
受給要件
傷病手当金は、以下の要件をすべて満たした方が受給できます。
- 職場外で発症したケガや病気が原因で働けない
- 連続する3日を含む4日以上仕事を休んでいる
- 休業中に給与が支払われていない
休業中に給与が支払われているときは、給与が傷病手当金よりも少額であれば差額分を受給できます。
受給額
傷病手当金の受給額の計算方法は、以下のとおりです。
直近12ヶ月の標準報酬月額の平均÷30日×2/3×休業日数
標準報酬月額とは、1ヶ月あたりの給料を1等級〜50等級までに区分した金額です。
例えば、直近12ヶ月分の平均報酬月額が30万円である場合は、以下のように計算します。
30万円÷30日×2/3=6,667円(※小数点第1位を四捨五入)
1日あたりの受給額が6,667円となるので、1ヶ月あたり20万円ほど支給されます。
障害年金とは

障害年金は、ケガや病気によって日常生活や就労に支障がある方を長期的に支援する年金制度です。
一時的な給付である傷病手当金と異なり、一定の要件を満たす方は受給要件を満たす限り受給できます。
ここでは、障害年金の受給要件と受給額を解説します。
受給要件
障害年金の受給要件は、以下のとおりです。
- 初診日に国民年金もしくは厚生年金に加入していること
- 障害認定日に障害年金を受給できる障がい等級に該当すること
- 20歳時点から「初診日の前々月まで」の期間で保険料納付済み期間と保険料免除期間を合わせた期間が3分の2以上あること
- 初診日とは、障がいの原因となったケガや病気で、初めて医師の診断を受けた日のことです。
ただし、次のいずれかに該当する場合は、初診日に公的年金に加入していなくても受給対象となります。
- 20歳未満の方
- 日本に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない方
これらに該当する方は、公的年金の加入義務がないため、初診日に年金未加入でも障害基礎年金を受給できます。
また、障害認定日は初診日から1年6ヶ月を経過した日もしくは症状が固定したと医師が判断した日のことです。
障害年金の受給要件を満たす場合、初診日に国民年金に加入していた人は障害基礎年金、厚生年金に加入していた人は障害基礎年金と障害厚生年金を請求できます。
受給額
障害年金の年間の受給額は、等級によって下表のように決まっています。
1級 | 2級 | 3級 | |
障害厚生年金 | 報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金(234,800円) | 報酬比例の年金額+配偶者の加入年金(234,800円) | 報酬比例の年金額 |
障害基礎年金 | 1,020,000円+子の加算 (1人につき234,800円、3人目からは78,300円) | 816,000円+子の加算(1人につき234,800円、3人目からは78,300円) | ー |
報酬比例の年金額は、以下の計算式で求められます。
報酬比例の年金額 = (平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの加入期間)+(平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入期間)
平均標準報酬月額は、加入期間の標準報酬月額の総額を加入期間の月数で割った金額のことです。
平均標準報酬額は、標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入の月数で割った金額を指します。
障害年金は計算方法が複雑であるため、自身で算出するのは難しいケースが多いです。
自身の受給額を知りたいときは、年金事務所や年金相談センターでの試算をおすすめします。
傷病手当金と障害年金の違い

傷病手当金と障害年金は、以下のような違いがあります。
傷病手当金 | 障害年金 | |
目的 | 一時的な所得保障 | 長期的な生活保障 |
受給できる期間 | 最長1年6ヶ月 | 定めなし (症状が変化しない限り受給できる) |
申請時期 | 休職開始から4日目以降 | 初診日から1年6ヶ月後または症状固定時 |
金額 | 給与の約2/3 | 障害等級に応じた定額部分または報酬比例部分 |
申請先 | 勤務先または加入している健康保険組合 | 障害基礎年金:自治体の窓口または年金事務所、年金相談センター 障害厚生年金:年金事務所または年金相談センター |
傷病手当金は発症直後の短期的なサポートを目的にしているのに対し、障害年金は症状が変化しない限り長期間受給できます。
傷病手当金は休職後、比較的早い段階から申請できるので、まずは傷病手当金の手続きを進めるのがよいでしょう。
傷病手当金を受給中に障害年金を申請するタイミング

障害年金は医師の診断書を受け取るまでに時間を要することがあるため、申請から受給まで4〜6ヶ月程度かかるのが一般的です。
障害年金をスムーズに受給するためには、傷病手当金の終了予定日の約半年前に障害年金を申請するのが理想的です。
ただし、障害年金が早めに支給されると、傷病手当金との重複期間が生じて傷病手当金の返還が必要となる場合があります。
返還手続きを避けたい方は、傷病手当金の支給終了の約2ヶ月前を目安に障害年金を申請するようにしましょう。
傷病手当金と障害年金の受給要件を満たしているときは併給しよう
障害基礎年金のみを受給していたり、異なる傷病が原因だったりする場合は、傷病手当金と障害年金を併給できます。
障害厚生年金を受給している方でも、1日あたりの年金額が傷病手当金の日額より低いときは、その差額分の傷病手当金が受け取れます。
傷病手当金と障害厚生年金を満額受給すると、返還が必要になるケースがあるため、あらかじめ健康保険組合や年金事務所に併給調整の対象となるかを確認しておきましょう。
ケガや病気で収入が減少し、生活費や家賃の支払いに困っている方は、ファイナンシャルプランナーへ相談するのがおすすめです。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士
コメント