若年性認知症の診断を受けて「仕事を続けられるのか」「収入が減ってしまったらどうしよう」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
若年性認知症の人が一定要件に該当すると、経済的負担を軽減するための制度を利用できる可能性があります。
金銭面の不安を少しでも減らすためにも、活用できる支援制度を知っておくことが大切です。
そこで本記事では、若年性認知症の人が受けられる支援制度を紹介します。
退職後に利用できる制度も紹介するので、仕事を辞めた後の生活費に不安を抱えている方は最後までご覧ください。

若年性認知症の人が受けられる支援制度

若年性認知症の人は、以下の制度を利用できる可能性があります。
- 自立支援医療制度
- 障害者手帳
- 傷病手当金
- 障害年金
それぞれ詳しく見ていきましょう。
自立支援医療制度
自立支援医療制度とは、精神疾患などの治療を目的として継続的に通院している人が病院や薬局で支払う医療費の自己負担を軽減できる制度です。
若年性認知症は自立支援医療制度の対象疾患なので、受診時の医療費が原則1割負担となります。
ただし、自治体が指定している医療機関と薬局でしか補助を受けられないので注意が必要です。
どこの医療機関で診察を受ければいいのかわからない方は、自治体の窓口で対象医療機関を調べておきましょう。
自立支援医療制度の適用を受けるためには、医師の診断書などの必要書類を準備したうえで自治体窓口で申請する必要があります。
自立支援医療制度の申請方法については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
障害者手帳
若年性認知症の人は初診日から6ヶ月経過すると、精神障害者保健福祉手帳を申請できる可能性があります。
初診日とは、若年性認知症の症状について初めて病院の診察を受けた日のことです。
精神障害者保健福祉手帳を取得すると、以下のサービスが受けられる可能性があります。
- 所得税や住民税の控除
- 自動車税・軽自動車税の減免
- 公共交通機関や施設利用料の割引 など
また、血管性認知症などによって一定以上の身体障害がある場合は、身体障害者手帳の対象となることもあります。
ただし、障害の程度によっては手帳を取得できない場合があるので、対象かどうかを知りたいときは医師や自治体の窓口に相談しましょう。
自治体によっては、1枚の診断書で精神障害者保健福祉手帳と自立支援医療制度を同時に申請できる場合があります。
診断書の発行費用は、5,000円前後かかるのが一般的です。
精神障害者保健福祉手帳と自立支援医療制度を同時申請できれば、医師の診断書代が1枚の料金で済むので経済的負担を軽減できるでしょう。
傷病手当金
傷病手当金とは、病気やケガで働けない人の生活を保障する制度です。
傷病手当金の受給額は以下の計算式で算出でき、最長1年6ヶ月受け取れます。
1日あたりの金額=直近12ヶ月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3
標準報酬月額とは、1ヶ月あたりの給料を1等級~50等級までに区分した金額です。
例えば、直近12ヶ月分の標準報酬月額を平均した額が25万円だった場合、1日あたりの支給額は以下のように計算できます。
25万円÷30×2/3=5,556円(※小数点第1位を四捨五入)
傷病手当金は、以下の要件をすべて満たした方が受給対象となります。
- 病気やケガが原因で働けない状態である
- 連続した3日を含んで4日以上仕事を休んでいる
- 休業中に給料が支払われていない
働けない状態であるかは、医師が記載する意見書を参考に判定されます。
傷病手当金を申請する際は、会社に報告したうえで傷病手当金支給申請書を作成し、協会けんぽや健康保険組合などに提出しましょう。
なお、国民健康保険に加入する自営業者やフリーランスの方は、傷病手当金を利用できません。
傷病手当金は収入がない間の生活費を確保できる制度なので、対象となる方は速やかに申請しましょう。
障害年金
若年性認知症についての初診日から1年6ヶ月経過し、一定の障害があると認められた場合は障害年金の対象となります。
障害年金を受給できるのは、以下の障害の状態に該当する場合のみです。
厚生年金の被保険者で障害等級が1級もしくは2級に該当する場合は、障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受け取れます。
等級 | 状態 |
1級 | ・高度の認知障害や人格変化がある ・他人の助けを受けなければ日常生活のことをほとんどできない状態 |
2級 | ・認知障害や人格変化が明らかである ・活動範囲が病院や家の中かつ日常生活の一部に他人の助けを必要とする ・労働によって収入を得ることが難しい |
3級 | 認知障害や精神症状によって労働に制限を受ける、もしくは職場の理解やサポートがあれば就労ができる状態 |
障害基礎年金と障害厚生年金の受給金額は、下表の通りです(令和6年4月分から)。
1級 | 2級 | 3級 | |
障害厚生年金 | 報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金(234,800円) | 報酬比例の年金額+配偶者の加入年金(234,800円) | 報酬比例の年金額 |
障害国民年金 | 1,020,000円+子の加算(1人につき234,800円、3人目からは78,300円) | 816,000円+子の加算(1人につき234,800円、3人目からは78,300円) | ー |
報酬比例の年金額は、以下の計算で求められます。
(平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの加入期間)+(平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入期間)
平均標準報酬月額は、加入期間の標準報酬月額の総額を加入期間の月数で割った額です。
一方、平均標準報酬額は、標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入の月数で割った金額です。
対象となる人は、最大1年6ヶ月にわたる傷病手当金の受給後、障害年金の受給によって一定の収入を得られる可能性があります。
障害年金の対象になるかどうか確認したい方は、医師や年金事務所に相談しましょう。
若年性認知症の人が退職後に利用できる制度

若年性認知症の人が退職後に利用できる制度には、以下の3つがあります。
- 失業保険(雇用保険の基本手当)
- 国民年金保険料の免除制度
- 家計急変支援制度(学費支援)
どのような支援を受けられるかを見ていきましょう。
失業保険(雇用保険の基本手当)
失業保険(雇用保険の基本手当)とは、雇用保険に加入している方が退職して失業状態となった場合に受け取れる給付金のことをいいます。
失業状態とは、働く意思や能力があるにもかかわらず就職できない状態のことです。
失業保険の給付金は、離職前の6ヶ月間における賃金日額(賞与を除く6ヶ月分の給与の合計÷180)の45~80%とされています。
認知症の症状を理由に退職した人は特定理由離職者に認定され、一般の離職者に比べて受給日数が延長される場合があります。
特定理由離職者の受給日数は、以下の通りです。
雇用保険の被保険者期間 | ||||||
1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | ||
離職時の年齢 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
35歳以上45歳未満 | 150日 | 240日 | 270日 | |||
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | ||
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
また、失業保険の手続きの時点で精神保健福祉手帳を所持している人は、就職困難者に認定される可能性があります。
就職困難者に認定された場合の、失業保険の受給日数は以下の通りです。
被保険者であった期間 | |||
1年未満 | 1年以上 | ||
離職時の年齢 | 45歳未満 | 150日 | 300日 |
45歳以上65歳未満 | 360日 |
なお、認知症の症状によって早期に再就職できない場合は、ハローワークに受給期間延長の申請ができます。
受給期間は最大3年間まで延長できるので、お住まいの住所を管轄するハローワークに相談してみましょう。
国民年金保険料の免除制度
本人・配偶者の前年所得が一定額以下となった場合や失業した場合は、国民年金保険料の支払い免除を受けられる可能性があります。
免除される金額は、前年所得に応じて以下のように異なります。
区分 | 所得基準 |
全額免除 | (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円 |
4分の3免除 | 88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額など |
半額免除 | 128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額など |
4分の1免除 | 168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額など |
納付猶予 | (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円 |
所得が「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」の範囲内であれば、納付猶予により、年金の納付を先送りする方法も選択できます。
ここでは、前年の給与収入が200万円で妻と子どもが扶養に入っている方のケースを見ていきましょう。
(扶養親族の人数 2名+1)×35万円+32万円=157万円
つまり、前年の所得が157万円以下であれば、全額免除の対象となります。
次に、給与収入が200万円の場合の所得金額を計算します。
200万円ー給与所得控除68万円=132万円
所得が157万円以下になるので、全額免除の対象となります。
なお、国民年金保険料は、過去2年までさかのぼって免除を受けられます。
手続きをせずに保険料未納のままでいると、将来老齢年金や障害年金が受け取れなくなる可能性があるので、対象となる場合は速やかに手続きをしましょう。
家計急変支援制度(学費支援)
家計急変支援制度とは、世帯年収が減少した場合に子どもが通学する高等学校などの授業料が支給される制度のことです。
家計急変支援制度の対象となる場合は、月額33,000円(公立学校は月額9,900円)を限度に支給を受けられます。
家計急変支援制度は、以下の要件をすべて満たすことで、受給対象となります。
- 病気やケガで仕事ができない
- 90日以上就労ができない
- 世帯年収が約590万円未満まで減少する見込みである
ここでいう世帯年収約590万円は、両親・高校生・中学生の4人家族で両親の一方が働いている場合の目安額です。
実際には、家計急変後の収入から年収を推計し、支援対象の可否が判断されます。
学校に速やかに申請すれば、申請月もしくは翌月分から授業料が支給される可能性があります。
対象となるかを確認する際は、学校や以下の各都道府県の担当部署に相談しましょう。https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1292209.htm
一定の症状によって住宅ローンの支払いが免除される場合がある
若年性認知症の診断を受けた場合、団体信用生命保険に加入していれば、住宅ローンの支払いが免除される可能性があります。
団体信用生命保険とは、住宅ローンの返済期間中に契約者に万が一のことがあった際、生命保険会社が住宅ローンの残高を支払ってくれる保険のことです。
例えば、住宅金融支援機構(フラット35)の新3大疾病付機構団信に加入している場合は、以下のすべてを満たした状態が180日以上継続すると対象となります。
- 器質性認知症と診断が確定された方
- 意識障害のない状態において見当識障害がある方
- 他人の介護を要する方
器質性認知症とは脳の病変によって起きた認知症のことです。
また、見当識障害とは時間や場所、周りの人などが認識できない状態のことをいいます。
これらの要件に加えて、要介護認定で要介護2以上に該当した場合も対象です。
なお、身体障害者手帳の1級または2級に該当する方は、住宅金融支援機構(フラット35)の新3大疾病付機構団信と新機構団信のいずれの加入者でも対象となります。
住宅ローンの支払いが免除される要件は、住宅ローンの融資を受けた金融機関や商品によって異なるので、金融機関の担当者に契約内容を確認しましょう。
若年性認知症になったときは支援制度を活用して経済的負担を軽減しよう
若年性認知症の診断を受けたときに支援制度を活用すれば、経済的負担を軽減できる可能性があります。
ただし、症状の程度によって支援制度の対象外となることがあるので注意が必要です。
利用できる支援制度があるか知りたい場合は、自治体の窓口などに相談してみましょう。
なお、治療費や生活費などの支払いに困っている場合は、ファイナンシャルプランナーへの相談がおすすめです。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士
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