認知症になると一人暮らしが難しくなるのではないかと疑問に感じていませんか。
認知症で記憶力や判断力が低下すると、家事や日常生活動作が難しくなりますが、軽度であれば一人暮らしを続けられる場合があります。
ただし、症状の進行に伴って支援が必要になるので、家族から支援を受けたり介護保険サービスを利用したりして介護体制を整えることが大切です。
そこで本記事では、認知症の方が一人暮らしをする際のリスクや対策、利用できる制度を解説します。
症状の変化に合わせて、適切な対策を取るためにも、ぜひ最後までご覧ください。
認知症になっても一人暮らしはできる
認知症と診断された方でも、症状の経過によっては一人暮らしを続けられる場合があります。
例えばアルツハイマー型認知症の場合、以下の経過をたどって症状が進行します。
認知症の経過 | 症状 |
軽度認知障害 (発症前) | ・もの忘れの自覚がある ・ヒントがあれば思い出せる |
軽度 | ・同じことを何度も聞く ・約束したことを忘れる ・料理が上手くできなくなる など |
中等度 | ・徘徊する ・食事や着替えが一人でできない ・もの盗られ妄想がある など |
重度 | ・家族のことがわからなくなる ・歩きにくさなど運動障害が見られる ・食事を飲み込みにくくなる など |
アルツハイマー型認知症が進行するスピードはさまざまですが、10年前後で軽度から重度まで進行するといわれています。
場合によっては軽度の症状が長く続いたり、数年で重度に進行したりする可能性もあります。
経過がゆっくりで軽度認知症の状態が長ければ、家族からの支援や介護保険サービスの利用によって一人暮らしを続けられるケースもあるのです。
むしろ認知症が心配という理由で、生活環境を大きく変えるとストレスや不安によって混乱を引き起こし、認知症の症状が進行する可能性があります。
慣れ親しんだ家で住み続けながら、ゆっくりと段階を踏んで周辺環境を変化させていくことが、認知症の方にとって負担が少ないでしょう。
一方、認知症の中等度以降になると介助を要する場面が多くなるので、一人暮らしが難しくなる可能性は高まります。
大きな事故に遭わないためにも、症状の進行度合いを定期的に確認し、一人暮らしを継続できるか判断することが大切です。
認知症の方が一人暮らしをする際のリスクと対策
認知症の方が一人暮らしをする際は以下のリスクがあり、それぞれの対策が大切です。
- 火事の危険性がある
- 金銭管理が難しい
- 外出先から自宅に戻れなくなる
- 健康管理が難しい
火事の危険性がある
認知症の方は、記憶力や注意力の低下によってガスコンロの火を消し忘れたり、ストーブをつけっぱなしにしたりする可能性があります。
火事によって取り返しのつかない状況になる前に、あらかじめ対策しておくことが大切です。
たとえば、ガスコンロの消し忘れ予防のために、IH調理器や安全装置付きのガスコンロに変更するのも一つの方法です。
なかでもIH調理器は火を使わずに調理できるので、火の消し忘れる心配がありません。
ただし、認知症が進行したあとにIH調理器を導入しても、器具の操作を覚えられない場合があるので、なるべく早いうちに使用しておくとよいでしょう。
火事が起きた時に備えて、消防署へ自動通報機能のある火災報知機を設置するのもおすすめです。
非常通報装置と連動されるので、火災時の通報の遅れを防止できます。
火災報知器を付ける際は寝室だけでなく、キッチンにも設置しておくことで被害をより小さくできるでしょう。
金銭管理が難しい
認知症になると、財布や通帳といった貴重品の置き場所を忘れてしまい、金銭管理が難しくなる場合があります。
同じものを何度も買ってきたり、家賃や水光熱費の支払いを忘れて滞納してしまう可能性もあるでしょう。
貴重品を紛失するまえに、本人と相談のうえ、通帳や印鑑は家族が管理するなどのルールを決めておくことが有効です。
水道光熱費などの定期的な支払いは、銀行引き落としにすると、支払い漏れがなくなります。
なお、貴重品や現金などの管理方法は本人を交えて決めておくことが大切です。
本人の同意なしに家族が管理すると、本人が不信感を抱いたり自尊心を傷つけたりしてしまいます。
本人と相談し、理解を得ながら金銭管理の方法を検討しましょう。
外出先から自宅に戻れなくなる
認知症の方は、自分がどこにいるかわからないという見当識障害の影響によって、外出したまま自宅に戻れなくなることがあります。
警視庁が発表した令和4年における行方不明者の状況によると、認知症またはその疑いの方は年間18,709人もの方が行方不明になっています。
自宅にいても「自分の家に帰る」と言ったり、家の中で落ち着きなく歩き回ったりしている方は、行方不明になるリスクが高いといえるでしょう。
行方不明になったときに備えて、自治体の見守りネットワークに事前登録しておくことが大切です。
見守りネットワークは、名前や顔写真といった情報を登録できるので、万が一行方不明になったときに、すぐに捜索を開始できます。
1人での外出が多かったり、道に迷う様子が見られたりする場合は、自治体の介護保険課などの窓口に相談して、見守りネットワークに登録しておきましょう。
健康管理が難しい
記憶力や判断力の低下によって薬を飲み忘れたり食事の栄養バランスが崩れたりして、健康管理が難しくなる可能性もあります。
糖尿病や心臓病といった持病がある場合、薬を飲み忘れると体調が悪化してしまうので注意が必要です。
また、栄養バランスが偏った食事を取ると血圧や血糖が不安定になり、体調を崩すリスクも高まります。
薬の飲み忘れを予防するためには、お薬カレンダーの使用がおすすめです。
飲んだ薬の袋をカレンダーに戻してもらうと、きちんと飲めているか確認できます。
健康を維持するためにも、内服方法を検討したり栄養バランスのよい食事をとったりすることが大切です。
認知症の方が一人暮らしで利用できる制度やサービス
認知症の方が一人暮らしする際は、以下の制度やサービスが利用できます。
- 介護保険サービス
- 日常生活自立支援事業
- 配食サービス
- 自治体独自の支援サービス
介護保険サービス
介護保険サービスは、要支援・要介護認定を受けた方が、デイサービスやヘルパーなどの公的な支援を受けられるサービスです。
介護の必要度合いによって、利用できるサービスの種類や量が決まります。
介護保険サービスのなかには、認知症対応型通所介護(認知症デイサービス)といった認知症に特化したサービスもあります。
認知症の進行を遅らせるためには、他者とのコミュニケーションや運動習慣が大切です。
たとえば、デイサービスを利用すると同年代の方やスタッフと会話をしたり、体操をしたりすることで脳の刺激になり、認知症の進行がゆるやかになる可能性があります。
一人暮らしをなるべく続けていきたい方は、介護保険サービスを利用して外出機会を増やしましょう。
日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業とは、障がい者や高齢者が自立した生活を送れるよう、契約に基づいて福祉サービスの利用や金銭管理を支援する制度です。
例えば生活費の管理が不十分で、家賃を払い忘れたり支払いの有無を忘れてしまったりする場合に支援を受けられます。
認知症の症状によってお金を使いすぎてしまう場合も、生活費を預かってもらえれば計画的に利用できるでしょう。
ただし、日常生活自立支援事業は契約内容を理解できる能力が必要なので、認知症が進行していると利用できない点に注意が必要です。
日常生活自立支援事業の支援内容や利用までの流れは、以下の記事で詳しく紹介しています。
配食サービス
自分で食事を作るのが難しい場合は、食事を宅配してくれる配食サービスの利用がおすすめです。
配食サービスは栄養バランスのよい食事を配達してくれるので、健康管理にもつながります。
また、毎日決まった時間に配達員が訪問することで、安否確認にもなる点が大きなメリットです。
配食サービス先によっては、毎回本人に手渡しで届けている業者や、緊急時に家族へ連絡してくれる業者もいます。
バランスのとれた食事をとったり安否確認をしたりするためにも、配食サービスを活用してみましょう。
自治体独自の支援サービス
自治体によっては、独自の支援サービスを運営している場合があります。
たとえば、認知症の方や地域住民、介護・福祉の専門家が集まる認知症カフェという場所があります。
認知症カフェでは認知症について学んだり、他の方と交流したりすることもでき、認知症の方の閉じこもりを防ぐ効果が期待できるでしょう。
認知症の方や家族が一緒に行けるので、カフェに行くような気持ちで気軽に参加できるのが特長です。
自治体によって運営されている支援サービスは異なるので、自治体の窓口に確認してみるのがおすすめです。
一人暮らしが難しいときは施設入所も選択肢の一つ
認知症が進行し、上述の対策をとったりサービスを利用したりしても、危険な場面が増えていれば、施設入所も考えましょう。
たとえば、体調悪化やボヤ騒ぎ、道迷いといったトラブルが出てきたら、一人暮らしが難しくなってきているといえます。
認知症の症状が進行しているにもかかわらず一人暮らしを継続すると、命に危険が及ぶ可能性があります。
そのため、症状に変化が見られたら早めに入所先を検討することが大切です。
認知症の方の入所先や施設を選ぶポイントについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
認知症の症状に応じて生活場所を考えよう
軽度の認知症の方であれば、一人暮らしが続けられる可能性があります。
一人暮らしで適切な支援を受けるためには、介護保険サービスや日常生活自立支援事業などのサービスを利用することが大切です。
しかし、認知症状の進行による体調悪化や徘徊といったトラブルが発生すると、一人暮らしが難しくなるケースもあります。
家族の支援やサービスを利用しても一人暮らしが難しい場合は、施設入所も選択肢の一つです。
安全に生活するためにも、認知症の症状に応じて生活場所を検討するようにしましょう。
監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士
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