障害がある人は退職所得控除の優遇が受けられる?対象者や控除額を解説

福祉制度
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障害を理由に退職することを考えている方のなかには、退職金にどれほどの税金がかかるのか知りたい方も多いのではないでしょうか。

障害がある人が退職金を受け取る際は、退職所得控除の優遇措置を受けられる場合があります。

ただし、退職金を年金方式で受け取ったり、職場に退職所得申告書を提出し忘れたりした場合は、退職所得控除を受けられなくなってしまうので注意が必要です。

本記事では、障害がある人向けの退職所得控除の概要や対象者、控除額を解説します。

退職所得控除を受ける際の注意点も紹介するので、自身が退職所得控除の優遇措置を受けられるのか知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

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退職所得控除とは 

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退職所得控除とは、会社から支払われる退職金に対して所得控除を受けられる制度です。

この制度では、長く勤めた従業員に対する退職金への税負担が一般的な給与所得より軽くなるようになっています。 

加えて、障害が原因で退職する場合は、優遇措置によってさらに大きな控除を受けることが可能です。

障害がある人が受けられる退職所得控除の要件

障害が原因で退職した場合は、退職所得控除の優遇措置が適用される可能性があります。

優遇措置の対象となるのは、以下のいずれかのケースです。 

  • 障害がある状態で職場復帰したが、元の仕事には戻れないまま、職場復帰してから約6ヶ月以内に退職した
  • 障害がある状態で元の仕事に戻ったが、継続して働くことができず、仕事復帰してから約2か月以内に退職した

障害のある状態とは、障害者控除と同程度の障害がある状態のことです。 

具体的には、以下のような状態が該当します。 

  • 精神上の障害によって物事を判断できない
  • 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている
  • 身体障害者手帳に身体上の障害がある人として記載されている など

ほかにも対象となる場合があるので、国税庁のホームページを確認してみましょう。

障害がある人が受けられる退職所得控除の計算方法

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退職所得控除の金額は、勤続年数によって以下のように異なります。 

勤続年数退職所得控除額
20年以下の場合40万円×勤続年数※
20年を超える場合800万円+70万円×(勤続年数※-20年)
※1年未満の端数は切り上げる

障害が原因で退職した場合は、これらの金額に100万円が加算されます。

なお、退職金額(額面)が退職所得控除額より少ない場合は、税金がかかりません。

ここでは、25年4か月勤務した方が障害を理由に退職し、一括で退職金2,000万円を受け取る場合の手取り額を計算します。

退職所得控除は、以下の式で求められます。

800万円+70万円×(26年※ー20年)+100万円=1,320万円
※4ヶ月は1年に切り上げる

課税対象となる退職所得金額は、原則として以下の式で算出します。

退職所得=(退職金※-退職所得控除額)×2分の1 
※源泉徴収される前の金額

退職金2,000万円と所得控除1,320万円を当てはめて計算すると、退職所得金額は340万円となります。

(2,000万円ー1,320万円)×1/2=340万円

続いて340万円の退職所得に応じた所得税や復興特別所得税、住民税を計算します。 

所得税は、下表の課税所得に応じた税率と控除額を使って求めます。 

課税所得税率控除額
195万円以下5%0円
330万円以下10%97,500円
695万円以下20%427,500円
900万円以下23%636,000円
1,800万円以下33%1,536,000円
4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超え45%4,796,000円

課税所得金額は340万円なので、所得税は税率20%と控除額427,500円を用いて以下のように計算します。

340万円×20%-427,500円=252,500円

復興特別所得税は所得税に2.1%をかけて計算します。 

252,500円×2.1%=5,302円(1円未満切り捨て)

また、住民税は原則として一律10%の税額となります。 

340万円×10%=340,000円

退職金の手取り額は以下の通りです。

2,000万円-252,500円−5,302円-340,000円=19,402,198円

実際に退職金がいくらもらえるか知りたい方は、勤務年数や退職金を当てはめて計算してみましょう。

退職所得控除の注意点

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退職所得控除を受ける際は、以下の3点に注意が必要です。

  • 年金方式で受け取ると退職所得控除を受けられない
  • 控除を受ける際は退職所得申告書の提出が必要
  • 短期間で退職すると退職所得の計算方法が異なる場合がある

それぞれ詳しく見ていきましょう。

年金方式で受け取ると退職所得控除を受けられない

退職金を分割して年金方式で受け取る場合、退職所得ではなく雑所得として扱われます。

雑所得にかかる税額は、退職所得と異なり、退職所得控除を受けられません。

そのため、年金方式で受け取る場合は、退職金にかかる税金が高くなる可能性があります。

年金方式で受け取る場合の納税額は、以下の手順で計算します。

  1. 公的年金と合算した収入金額を算出する
  2. 収入金額と年齢に応じた公的年金等控除額を差し引き「公的年金等にかかる雑所得の金額」を計算する
  3. アルバイトなどの収入や不動産収入など他の所得があれば、2と合算する
  4. 基礎控除や配偶者控除、障害者控除などを差し引いて課税所得金額を求める
  5. 4の金額から所得税や復興特別所得税、住民税を計算する

公的年金等控除額は年齢や収入金額によって異なるので、国税庁のサイトで確認しておきましょう。https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm

退職所得申告書を提出しなければ控除を受けられない 

退職所得控除を受けるためには、退職所得申告書を職場に提出する必要があります。

提出しない場合、退職金から20.42%の所得税や住民税が源泉徴収(天引き)されて手取り分が減ってしまいます。

支払いすぎた税金を取り戻すためには、確定申告が必要になるので注意が必要です。

確定申告の手間を省くためにも、会社からの案内に従って退職所得申告書の提出を済ませておきましょう。

短期間で退職すると退職所得の計算方法が異なる場合がある 

勤務年数が5年以下の従業員に支払われる退職金は「短期退職手当等」に該当し、通常の退職所得と異なる方法で課税所得金額を算出する場合があります。

短期退職手当等の退職所得金額は、退職金から所得控除(40万×勤続年数)を差し引いた金額が300万円を超えるかどうかで判断されます。

【退職金から所得控除を差し引いた金額が300万円以下の場合】

退職所得=(退職金額-退職所得控除額)×2分の1
※1,000円未満の端数は切り捨て

300万円以下の場合は、通常の計算式と同様です。

【退職金から所得控除を差し引いた金額が300万円を超える場合】

退職所得=150万円+(退職金額ー300万円-退職所得控除額)
※1,000円未満の端数は切り捨て

勤務年数が5年以下で、退職金から所得控除を差し引いた金額が300万円を超える場合は、課税金額の算出方法が異なるので注意しましょう。

障害のある人が退職後の不安を軽減するために利用したい制度

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退職後の経済面の不安を軽減するためにも、以下の制度の利用も検討しましょう。

  • 障害年金
  • 失業保険(雇用保険の基本手当)
  • 国民年金保険料の免除制度

各制度で受けられる支援内容を詳しく紹介します。

障害年金

障害年金は、病気やケガによって仕事・生活に制限を受ける場合に受給できる年金です。

障害年金は原則として、原因となる症状について初めて病院の診察を受けた日から1年6か月経過した時点で、一定の障害があると認められた方が対象となります。

以下のような障害の状態に該当すると、障害年金を受給できる可能性があります。

等級状態 
1級日常生活のほとんどに他者の介助が必要な状態
2級・活動範囲が病院や家の中に限定され、日常生活の一部に他者の介助が必要
・労働によって収入を得ることが難しい
3級障害によって労働に制限を受ける、もしくは職場の理解やサポートがなければ就労ができない状態
参考:国民年金・厚生年金保険障害認定基準

障害年金には、障害基礎年金(1〜3級)と障害厚生年金(1・2級)の2種類があり、それぞれ受給対象者が異なります。

国民年金の加入者は障害基礎年金、厚生年金の加入者は障害基礎年金・障害厚生年金の対象となります。

受給対象となるのかがわからない場合は、管轄の年金事務所や年金相談センターに相談しましょう。

失業保険(雇用保険の基本手当)

失業保険(雇用保険の基本手当)とは、雇用保険に加入している方が失業状態となったときに受け取れる給付金のことです。

失業保険では、離職前の6ヶ月間における賃金日額(賞与を除く6ヶ月分の給与の合計÷180)の45〜80%が給付されます。

障害を理由に退職した方は、一定要件を満たすと「特定理由離職者」に認定され、一般の離職者に比べて受給日数が延長される場合があります。

         雇用保険の被保険者期間 
1年未満1年以上5年未満5年以上10年未満10年以上20年未満20年以上
離職時の年齢30歳未満     90日90日120日180日
30歳以上35歳未満120日
180日
210日240日
35歳以上45歳未満150日240日270日
45歳以上60歳未満180日240日270日330日
60歳以上65歳未満150日180日210日240日

加えて、失業保険の手続きの際に障害者手帳を所持しており、現時点での就職は難しいとハローワークが判断した方は「就職困難者」と認定される可能性があります。

就職困難者の方は、失業保険を以下の日数で受給できます。 

被保険者期間
1年未満1年以上
離職時の年齢45歳未満150日300日
45歳以上65歳未満150日360日

失業保険の受給対象となる場合は、お住まいの住所を管轄するハローワークで手続きしましょう。

国民年金保険料の免除制度

本人・配偶者の前年所得が一定額を下回ったり失業状態になったりした場合は、国民年金保険料の支払い免除を受けられる可能性があります。

免除される金額は、前年所得が以下の基準を満たしているかで異なります。 

区分所得基準(前年の所得)
全額免除(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円
4分の3免除88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
半額免除128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
4分の1免除168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
納付猶予(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円

なお、所得が「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」の範囲内であれば、納付猶予を希望することで年金の納付を先送りできます。

国民年金保険料は、過去2年までさかのぼって免除を受けられます。

保険料未納のままにしておくと、将来老齢年金や障害年金が受け取れなくなる可能性があるので、対象となる場合は速やかに手続きしましょう。

障害のある人は制度を利用して退職後の不安を軽減しよう

障害を理由に退職する場合、通常の退職所得控除額に加えて優遇措置を受けられる可能性があります。

ただし、退職金を年金方式で受け取ったり、職場に退職所得申告書を提出し忘れたりした場合は、退職所得控除を受けられないので注意が必要です。

自分が退職所得控除の優遇措置の対象になるかを知りたい場合は、国税庁の相談窓口や最寄りの税務署に相談してみましょう。

なお、退職後の生活費に不安がある場合は、ファイナンシャルプランナーへの相談がおすすめです。

お困りの方は、お気軽にご相談ください。

監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士

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