労災による後遺症で障害(補償)給付を受けている方のなかには、障害年金も受給できるのか疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。
障害(補償)給付と障害年金は併給できますが、併給調整によって障害(補償)給付が一部減額されます。
想定していた給付を受けられない状況にならないためには、併給したときにどれくらい受け取れるのかあらかじめ把握しておくことが大切です。
本記事では、労災の障害(補償)給付と障害年金を併給した際の減額率や申請方法を解説します。
障害(補償)給付と障害年金の併給を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。

障害(補償)給付と障害年金は併給できる

障害(補償)給付と障害年金は、それぞれの受給要件を満たしていれば併給することができます。
ただし、どちらも満額受給すると、就労時の賃金より受取額が多くなる可能性があるので、障害(補償)給付が以下のように併給調整されます。
| 障害年金の種類 | 障害(補償)給付の減額率 |
| 障害厚生年金・障害基礎年金(初診日に厚生年金加入、障害年金2級以上に認定された場合) | 0.73(27%減額) |
| 障害厚生年金(初診日に厚生年金加入、障害年金3級に認定された場合) | 0.83(17%減額) |
| 障害基礎年金(初診日に国民年金加入、障害年金2級以上に認定された場合) | 0.88(12%減額) |
なお、障害等級が1〜7級の方が受け取る障害補償年金が調整の対象となり、8〜14級の方は障害補償一時金のため調整されません。
障がいの原因が別傷病であれば併給調整されない

労災年金と障害年金の併給調整は、同じ病気やケガが原因の場合のみ行われます。
そのため、原因が異なる障がいで受給する場合は、減額されずにどちらも満額で受け取れます。
例えば、仕事中の事故で障害(補償)給付を受けている人が、仕事とは無関係の聴覚障がいで障害年金を受給するときは、どちらの給付金も減額されません。
複数の障がいがある方は、それぞれの傷病が別の原因で生じたことを医師の診断書などで証明できれば、併給調整されずに受け取れる可能性が高まるでしょう。
障害(補償)給付と障害年金を併給するときの注意点

障害(補償)給付と障害年金を併給するときは、以下の点に注意が必要です。
- 労災と障害年金の等級は対応していない
- 20歳前の傷病による障害基礎年金は支給を受けられない
- 請求期限が決まっている
1つずつ詳しく紹介します。
労災と障害年金の等級は対応していない
労災と障害年金は、障がいの程度を判定する基準が異なります。
労災は身体の部位や機能ごとに1〜14級まで細かく分かれていますが、障害年金は日常生活や就労の困難さを基準とした1〜3級の3段階となっています。
そのため、一方で認定されても、もう一方では認定されない場合もあることに注意が必要です。
受給できるかどうか確認するときは、労災は労働基準監督署、障害年金は自治体の窓口や年金事務所に相談してみましょう。
20歳前の傷病による障害基礎年金は支給を受けられない
20歳前の傷病によって障害基礎年金を受給している方が、障害(補償)給付を受給することになった場合、障害基礎年金の支給が停止されます。
「20歳前の傷病」とは、国民年金に加入していない20歳前に初診日がある障がいのことです。
例えば、先天性の障害で障害基礎年金を受給している方が、仕事中の事故で労災からの給付を受けると、障害基礎年金はもらえなくなります。
生まれつきの障がいなどで障害基礎年金を受けている方は、障害(補償)給付に切り替わることでどのような影響があるのかを年金事務所や労働基準監督署に確認しておくことをおすすめします。
請求期限が決まっている
障害(補償)給付の請求期限は、傷病が治った日の翌日から5年間と決められています。
傷病が治った日とは、治療を続けても症状の改善が見込めないと医師が判断した日のことです。
請求期限を過ぎると、障害(補償)給付を受給できなくなるため、速やかに手続きをしましょう。
障害(補償)給付の申請方法

障害(補償)給付の手続きは、以下のとおりです。
- 申請書類を準備する
- 勤務先を管轄する労働基準監督署に申請書類を提出する
- 労働基準監督署による面談・審査
- 認定結果が通知される
障害(補償)給付の申請をするときは、以下の書類の準備をして労働基準監督署に提出しましょう。
| 書類名 | 内容 |
| 障害(補償)給付支給請求書 | 事業主に証明を受け、自身で記載する |
| 労働者災害補償保険診断書 | 医師に作成を依頼する |
| 療養(補償)給付たる療養の費用の請求書 | 診断書作成費用の領収書を添付する |
| 同意書 | 労働基準監督署が医療機関にレントゲンなどの提供を求める際に使用する |
| 自己申立書 | 自身で身体状況や既存の障がい有無について記載する |
| 賃金台帳、出勤簿 | 休業(補償)給付を受給していない人に限り、傷病発生直近の賃金締め日以前3ヶ月分を提出する |
療養(補償)給付たる療養の費用請求書は、医師が記載した診断書の作成費用を労災保険に請求するための書類です。
医療機関で診断書の作成費用を支払った場合は、労災保険から最大4,000円の還付を受けられます。
ただし、労災指定病院を受診した場合は、病院と労働基準監督署が直接やり取りするため、基本的には診断書代の支払いを求められません。
労災保険の請求書類は様式がすべて決まっており、異なる様式では受理されないことに注意が必要です。
スムーズに手続きを進めるためにも、労働基準監督署に確認のうえ、自身の状況に合った請求書を確認しておきましょう。
障害年金の申請方法

障害年金の申請先は、障害基礎年金と障害厚生年金のどちらを受給するのかによって異なります。
障害基礎年金を申請する際は自治体の窓口、障害厚生年金は年金事務所または街角の年金相談センターに申請するのが一般的です。
申請に必要となる書類は、以下のとおりです。
- 年金請求書
- 医師の診断書
- 受診状況等証明書
- 病歴・就労状況等申立書
- 基礎年金番号通知書や基礎年金番号がわかる書類
- 住民票
- 受取先金融機関の通帳 など
これらの書類のうち、年金請求書や診断書、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書は、それぞれの申請先で受け取れる専用書式が必要です。
障害年金は書類を提出してから支給決定までに約3ヶ月、実際に支給されるまでにさらに約1.5ヶ月かかる場合があります。
必要なタイミングに受給するためにも、必要な書類がそろったらすぐに申請することをおすすめします。
障害(補償)給付と障害年金を併給する場合のよくある質問

最後に、障害(補償)給付と障害年金を併給する場合のよくある質問に答えていきます。
障害(補償)給付と障害年金の支給日に違いはある?
障害(補償)給付、障害年金ともに偶数月に2か月分がまとめて支給され、年6回の支給が受けられます。
どちらも原則として支給要件を満たした月の翌月分から受給できます。
ただし、手続きの進行状況や認定時期によって、初回支給時期が変更になる可能性があることを認識しておきましょう。
障害補償年金と障害年金の違いは?
障害補償年金と障害年金は名称が似ていますが、別々の制度です。
障害補償年金は労災保険から支給されるもので、障害等級1〜7級に認定された方が対象です。
一方、障害年金は障がいにより働くことが困難になった方に国民年金や厚生年金から支給される年金のことを指します。
労働時間が一定以上ある方は通常、両方の制度に加入しているため、受給要件を満たせば併給することができます。
健康保険で診察を受けると障害(補償)給付を受給できない?
健康保険で診察を受けること自体は障害(補償)給付を受給できない理由になりませんが、障害(補償)給付を受給するためには労災保険の適用を受ける必要があります。
障害(補償)給付は、労災認定された傷病の治癒後に一定の後遺症が残ったときに受給できる給付金です。
労災認定されるためには、医療保険の窓口で「労災保険で受診する」と伝えて受診する必要があります。
健康保険の診察後に労災保険に切り替えることもできますが、手続きが複雑になることがあります。
労災保険が適用される傷病であれば、はじめから労災保険で受診するようにしましょう。
労災の障害(補償)給付と障害年金の対象となる人は併給しよう
労災の障害(補償)給付と障害年金は、それぞれの受給要件を満たしていれば併給できます。
ただし、同一傷病の場合は労災の障害(補償)給付額が調整されることや、20歳前の傷病による障害基礎年金との併給はできないことに注意が必要です。
自身が対象になるかわからない場合、障害(補償)給付のことは労働基準監督署、障害年金のことは自治体の窓口や年金事務所に相談してみましょう。
なお、生活費や介護費の支払いに困っている方は、ファイナンシャルプランナーへ相談するのがおすすめです。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士



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